ヒラド・プロトコル 第二部 焼却命令
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2118年、味を選ぶことは罪だった。
01. INTRODUCTION
2118年の日本。
ふるさと納税の使途をめぐる内戦によって、
日本列島は二つに分裂していた。
納税連邦の支配下にある平戸では、食事も政府によって管理されていた。
人々に与えられるのは、栄養管理局が認可したレーションだけ。
甘いものも、おいしいものも必要ない。
必要な栄養さえ摂取できれば、人間は生きていける。
それが、納税連邦の考え方だった。 しかし平戸には、その思想に密かに抵抗する工場があった。
それは、レーション製造工場、
《NEO KUMAYA》
表向きは政府認可のレーション工場。
しかしその地下では、熊屋十四代目当主セイジロウ・クマヤと社員たちが、失われた菓子を密かに作り続けていた。
栄養食
栄養食
栄養食
栄養食
栄養食
BURN ORDER // ACTIVE
人々は、《選ぶ》という感覚を思い出した。

01.RECOVERY LOG
一年前。
2117年のハロウィン。
NEO KUMAYAから子どもたちへ、《記憶カステラ K-543》と、青白く光る《琥珀の夢》が手渡された。
甘味に封じられていた“味の記憶”は、子どもたちを通して、平戸の街へ静かに広がっていった。
そして、その影で。
子どもたちの活躍によって、失われていた「ごぼうもち」のレシピコードがNEO KUMAYAへ届けられた。
02.SURVEILLANCE LOG
ごぼうもちは復元された。それは、ほんの小さな出来事だった。しかし、その味を知った人々は少しずつ変わり始める。
「どうして食べたいものを、
自分で選べないの?」
人々は、「選ぶ」という感覚を思い出してしまった。中央AIは、この変化を危険と判断する。
調査によって浮かび上がったのは、NEO KUMAYA。
政府は、地下工房の存在を疑い始めていた。しかしその頃。
工場の中では、政府がまだ意味を知らない小さな異常が起きていた。
ただの栄養に、記憶が宿った。
01.RATION MANUFACTURING RECORD
NEO KUMAYAは政府の命令によって、非常用レーションを製造していた。 栄養管理局認可番号:E876598《戊式緊急栄養食》 長期保存が可能な、結晶状の糖質補給食品。
02.ANOMALY REPORT
ある日、製造された戊式の一部に奇妙な現象が確認された。 暗闇で特殊な光を当てると、結晶が青白く光る。 それは前年のハロウィンに、子どもたちへ手渡された《琥珀の夢》と同じ光だった。
03.SECRET RESEARCH LOG
納税連邦にとって、それはただの製造異常だった。 しかし、セイジロウは違った。 なぜ、政府認可のレーションに《琥珀の夢》と同じ光が現れたのか。 NEO KUMAYAは、政府に隠れて研究を始めた。
04.MEMORY MEDIA DEVELOPMENT
その結晶には、レシピ、香り、食感、材料、作り方、 そして、味にまつわる人々の記憶まで記録できることが分かった。 NEO KUMAYAは、《琥珀の夢》の結晶構造をもとに、 新たな記憶媒体を開発する。
その名は、、、
五つの光が、失われた味を未来へ運ぶ。
01.MEMORY ARCHIVE
NEO KUMAYAのさらに奥深く。
そこには、長い年月をかけて集められた平戸の「味の記憶」が保存されていた。
そして、名前さえ忘れられてしまった菓子。
02.K-543 TRACE
レシピ、道具、菓子にまつわる物語。
誰が作り、誰が食べ、どんな時間を過ごしたのか。
最初の手がかりは、10年前の焼成ログ《K-543》に残されたわずかなデータ断片だった。
03.HIRADO PROTOCOL
解析の結果、その断片はひとつの文化保存計画へつながった。 失われた味と記憶を呼び覚ますことは、連邦AIシステム《ZEN-PAY》の洗脳機構に干渉する可能性を持っていた。
その名は、《HIRADO PROTOCOL》
NEO KUMAYAは「味の記憶」を赤、青、黄、緑、白の五つの領域に分割。
五色すべてがそろったとき、HIRADO PROTOCOLは復元できる。
仮装は、監視をすり抜ける魔法になった。
01.BURN ORDER DAY
焼却命令執行の日。
平戸上空には、無数の監視ドローンが飛んでいた。
しかし街には、カボチャ、魔女、幽霊、骸骨。
仮装した子どもたちがあふれていた。
一年に一度、人々が別の姿になれる夜。
ハロウィン。
02.AI BLIND SPOT
NEO KUMAYAでは、HIRADO PROTOCOLの退避が始まっていた。
五色の記憶結晶は、工場各所の秘密保管庫へ移された。
しかし直後、納税連邦によって平戸の通信網が遮断される。
独立自治圏へデータを送ることはできない。
社員たちも監視され、結晶を工場の外へ運び出せない。
このままでは、HIRADO PROTOCOLは工場とともに焼かれてしまう。
そのとき、セイジロウは街を歩く子どもたちを見た。
監視AIは大人たちを追っている。
しかし、魔女も、幽霊も、骸骨も、カボチャも、
その正体を正確には見分けられない。
03.MISSION ROUTE
セイジロウは、ある極秘作戦を発動した。
何が行われたのか。
納税連邦の記録には、残されていない。
工場は焼けた。だが、味と記憶は逃げ切った。
01.DESTROY RECORD
午後8時。
焼却部隊がNEO KUMAYAへ到着する。
しかし、政府に奪われるものはもう何もなかった。
セイジロウたちは、
自ら工場の焼却装置を起動した。
菓子の道具も、古いレシピも、地下工房も。
すべて炎の中へ消えていった。
納税連邦の監視システムに、一つの表示が現れる。
反乱拠点、消滅。納税連邦は、そう記録した。
02.FIVE LIGHTS SURVIVED
しかし。燃え上がる工場から離れた、平戸の街のどこか。
暗闇の中で、小さな赤い光が灯った。
そして、青。黄。緑。最後に、白。五つの光が、暗闇の中で静かに輝いていた。
その夜、《戊式緊急栄養食》が平戸の人々の手元に残されていた。
ただのレーションとして。ただの栄養として。納税連邦がそう信じていた、小さな結晶。
しかし特殊な光を当てると、それは今も青白く光る。
03.CLASSIFIED ANSWER
五色の記憶結晶を持ち出したのは誰なのか。
焼却直前に発動された
《MISSION 02》とは何だったのか。
その答えを、納税連邦政府はまだ知らない。
ただ一つ、確かなことがある。
工場は焼けた。
だが、味と記憶は逃げ切った。
HIRADO PROTOCOL
MISSION 02:CLASSIFIED
HIRADO PROTOCOL / SECOND RECORD COMPLETE
味は記録ではない。
味は記憶だ。
五つの光は、平戸の夜へ散った。
誰が何を運んだのか、記録には残されていない。
ただ、焼け跡に残らなかったものだけが、
人々の手の中で生き延びた。